どうする転職 自己評価に3×3のマトリックス
2014 年 08 月 12 日
日本経済新聞記事
会社が年功序列的な人事処遇の場合、他の人よりがんばっている社員を早く引き上げることができず、何年も待たされることがあります。この間は給与や賞与、退職金が伸び悩み、生涯賃金で数千万円の「損」となることもあるでしょう。
転職がうまくいくことは家計や将来の余裕をつくり、公的年金も増額します(保険料を多く払うと年金は確実に増える)。キャリアは老後をにらんでも、とても重要な問題です。今回は「転職のためにどう自己評価するか」というテーマを考えます。
■転職王・山崎元氏に相談
転職回数が多いことで有名な経済評論家の山崎元氏(名字は同じだが全く親戚関係はありません)は転職について何冊も書籍を著し、テレビに転職王として登場したこともあります。実は筆者は最初の転職に際して山崎元氏に相談したことがあります。
最初に働いていた会社のセミナー講師として縁があったため、就業時間後にお時間をいただき、転職すべきかどうか相談しました。すると今の仕事について現状の評価と転職して何をしたいか述べてみよ、と言われました。
場所は高田馬場のモツ焼き屋でした。どうにも煙いお店で、涙をこぼしながら自己評価と転職の抱負を語ったところ、山崎元氏が関わっていた会社を紹介してもらい転職することになりました。涙を流したのは会社がつらいからではなく煙かったからなのですが、結果として転職のきっかけをつかんだわけです。
転職経験者の話は参考になります。転職経験のある先輩がいたら、一度経験談を聞いたり意見を求めてみたりするといいでしょう(ただし他社に勤めていること。同じ会社の先輩は相談すべきではない)。
なお、両親に相談する場合は要注意です。筆者は親が転職に賛成してくれたので気が楽になりましたが、反対された場合は意見が重くのしかかります。親に相談するときは気をつけてください。
■3×3のマトリックスで転職の自己評価をしてみよう
今回は転職を自己評価するためのシートを作りました。3つのキーワードに分けて整理するといいでしょう。
まず、「仕事の内容」です。仕事がつまらないなら、その理由を整理します。スキルを伸ばしたいのに、そうならない悩みを記入しましょう。現状の会社のままの見通しと、転職した場合にどんな改善が考えられるかも整理します。
次に「職場の人間関係」です。セクハラやパワハラはもちろん、不法行為や、労働基準法に違反する勤務実態などは、十分に転職理由になります。今の職場での改善可能性と転職による改善可能性を整理します。
最後に「報酬」です。今の報酬は自分の能力に見合ったものか、じっくり考えましょう。現在の自分の能力に対して給与・賞与などが適正かどうかを判断します。伸びしろを考慮してはいけません。また、もし十分でない場合、どれくらいの年収が適当かも考えてください。
初めて転職を考えている人は、3つのテーマに3つの評価を行い、マトリックス式にシートを埋めると、転職の必要性や課題が明らかになってくるはずです。
■2つ問題があれば転職活動をとりあえず始めてみよう
さて、3つのテーマすべてで「転職の必要あり」と判断するなら転職活動してもかまいません。2つの問題がある場合も、「まずは転職活動してみる」と判断していいと思います。「仕事の内容」「職場の人間関係」「報酬」のうち2つに問題がある、ということは、仕事でかなりのストレスが生じている状態だからです。
ただし、いきなり辞表を出してから転職活動するのではなく、今の会社に勤めながら転職の可能性を探る方法がいいでしょう(転職活動の進め方は来週説明します)。
なお1つしか引っかからない場合は、残りの2つの満足が労働意欲につながっている状態です。例えば「仕事の内容」は不満があるが、「職場の人間関係」は円満であり「報酬」もまあ納得がいく金額、という場合です。職場内での改善可能性に賭ける方法もあり、急いで転職をしなくてもいいでしょう。3つのテーマの整理が、転職を悩むあなたの背中を押してくれるでしょう。
■お金に問題があればそれだけで転職を決断してもいい
ところで、3つテーマがあったうち2つ問題があれば転職を決断してもいいと述べました。しかし、このテーマに問題があるなら即座に転職活動してよい、というテーマがひとつあります。それは「報酬」です。
自己評価した自身の能力と報酬のバランスが合っていないということは、会社はあなたを過小評価しています(あなたが自分を過大評価していない限り)。
来年や再来年に昇格・昇進してギャップが解消される可能性もありますが、中期的に年収上昇が見込めない場合、今の会社にとどまり続けてもメリットがないどころか、自分の能力を安売りすることになります。
この場合はすぐに転職活動をしてもいいでしょう。特に「仕事の内容」は楽しく、「職場の人間関係」も良好なので転職を先延ばしするケースは危険な状態です。会社もそれが分かっているので、低い年収のままにしている可能性があるからです。筆者の周囲にもこのトラップに引っかかりキャリアを5年ほど浪費した人がいます。転職後のキャリアと比較すると、少なくても1000万円は損しています。
能力がある人が新しい職場に飛び込むと、新しい「仕事の内容」はもっと楽しく、新しい「職場の人間関係」を維持しつつ、高い「報酬」を得たりします。新しいチャレンジを恐れることはありません。
先週は、就職して何年目が好機か決めつけないようアドバイスしました。自分が転職をする好機かどうか見極める基準は、あくまで自分自身の中にあります。今回のシートはその好機をあぶりだすことができます。転職の好機が来たときには逃さないでください。