初めての就職活動は分からないことだらけ。直接企業に質問しづらいことも多いし、口コミ情報がどこまで信用できるかも不安だ。そんな悩みを解決する「就活探偵団」。就活生の様々な疑問に答えるべく、あなたに代わって日経記者が企業に突撃取材します。
今回の疑問は「リクルートスーツは暗い色じゃないとダメ?」
リクルートスーツは就活の必需品。今年の採用活動は12月1日に本格スタートするため、今月末の土、日曜日(11月26日、27日)がリクルートスーツ商戦のピークとなる。お決まりの黒や紺のデザインには抵抗があるという学生もいるだろう。かといって、大事な面接で心証を害するのも困る。「常識的な範囲で」と言われても、自分の常識が面接担当者の常識と合っているかは分からない…。これからスーツを買おうという学生のために、「許される範囲」を探ってみた。
企業に聞き取り調査をするために、紳士服大手のはるやま商事に協力してもらい、次のような写真サンプルを作った。1から8に向けて、地味なデザインから派手なデザインに並べてみた。簡単に説明すると1紺、2グレー、3茶、4ストライプ柄の黒、5ストライプ柄の明るい紺、6白、7緑、8赤――となっている。採用担当者に学生が面接で着てもいいと思うデザインが何番までかを聞いた。はるやま商事によると就職活動用として販売するスーツはほとんどが無地の「黒」か「紺」。それ以外のデザインは「お勧めもしていない」というが…。
■「金融機関は黒か紺」とは限らない」
まず、2012年4月入社予定の新卒採用向けウェブサイトに「標準的な就活スタイル」として写真付きで服装を紹介した損害保険ジャパン。サイトでは「紺か黒が基本」と明示している。問い合わせると「就職活動の最低限のマナーをあらかじめ身につけてほしいからサイトで掲載しています」とのこと。写真サンプルで言うと1が「基本」ということになる。
さすが、お堅いイメージがある金融機関、とも言えそうだが、金融関係はすべて「黒か紺」と決めつけるのは早計だ。
りそな銀行人材サービス部の小川勝グループリーダーは3の「茶色まではOK」と答えた。第一生命保険はさらに範囲が広く、4のストライプ柄の黒や5のストライプ柄の明るい紺までは大丈夫だという。
金融機関以外の「お堅そう」な職種では、東京都で採用を担当する人事委員会事務局の田中賢也試験課長は「3まで」。北陸電力の採用担当者は5を選んだ。採用側が基準とする範囲は一般に思われているよりも広がっているように見える。
■「ストライプOK」も
今回は様々な業種から約20社を取材したが、その6割が3~5を選んだ。多少のデザイン性を許容する企業が実は多い。普段のオフィスで「黒、紺の無地」以外を見慣れてきているというのが背景にあるようだ。はるやま商事によると20~30代のビジネスパーソン向けの売れ筋は4と5というから、実際のオフィスでは黒、紺の一辺倒というわけではない。採用担当者も落ち着いた色であれば黒、紺以外やストライプ柄などにもあまり違和感を抱かないようだ。「黒や紺の無地以外が減点の対象となるというわけではない」(三菱自動車人事労政部の松井哲マネージャー)。
■「赤」でも大丈夫な有名会社も
リクルートスーツはやっぱり黒か紺がいい?
• そう思う
• そう思わない
• どちらでもない
それでも6白、7緑、8赤までを許容するのは少数派。「そのスーツを選んだ理由を答えられないとマイナスイメージを与えそう」(KDDI人事部の角廣さやか課長補佐)、「奇をてらっているように見える」(日野自動車人事グループの小幡誠紀さん)と否定的な見方が目立つ。学生にとっては、かなり勇気のいる選択となる。
「服装で個性を出すよりも相手がどう思うかを考える必要がありますね」(りそなの小川リーダー)というのが一般的な採用担当者の見方のようだ。
高級輸入車を販売するヤナセでも「派手な商品を売っていますが営業担当者のスーツは地味」(人事企画課の長行司芳久マネージャー)とのこと。やはり希望する会社の職場で見かけないようなスーツはリスクが高い。
逆に職場で見慣れていれば問題がないとも言える。大丸松坂屋百貨店は6の白も着こなし次第で大丈夫。「綿素材のパンツに白のジャケットを着ると清潔感があり、着こなしているなと好印象です」という。
8の赤でも問題ない、とする有力企業もあった。ホンダとJR東海、ソフトバンク。「スーツであれば、どんな色でも構いません」(ホンダ)。「中身で勝負してもらいたいので何番でも」(JR東海の人事部人事課の井上陽介課長代理)とスーツを着用していれば、どれでも良いとの答えが返ってきた。ソフトバンクに至っては、スーツでなくても構わない。カジュアルな服装で来社してもらうことを推奨、「タンクトップは困りますがTシャツにジーンズは大丈夫」(採用推進課の橋口忠昌課長)と自由度がかなり高い。
■商社は面接担当者次第?
学生に人気の商社は少し複雑。面接を担当した社員がどの事業部門に属するかで基準が変わる会社もある。伊藤忠商事の佐藤泰美採用・人材開発室長は「一概には言えませんが、金融や鉄鋼部門の社員が面接担当者なら1の紺や黒が無難、繊維のアパレル部門なら8の赤でも良いでしょう」という。丸紅の人材採用課の澤田健太郎課長は「事業部門かどうかは別として、人によって違う。8の赤でなければ大丈夫という人もいるでしょう」と答える。同じ会社に様々な事業部門を抱える商社は「標準」が見えにくいようだ。
採用担当者からはスーツの色だけでなく、その着こなしに注意するようアドバイスする声が多かった。「ネクタイが曲がっている」「スーツを手入れしていない」「スポーツバッグなどスーツに合わないかばんを持っている」などはいくらスーツの色に気をつけてもマイナス要因となることが多いそうだ。
面接担当者は着ている服ではなく、学生の人間性を見ている。スーツはその判断材料の一つ、という位置づけを理解しておくべきだろう。
最後に、はるやま商事にも聞いてみると「2のグレーまでが許容範囲」(広報担当の横山健一郎マーケティング部部長)。…意外と堅かった。
採用担当者が答えたリクルートスーツで許されるデザインの目安
(注:丸紅と伊藤忠商事は幅が大きいため最大値とした)
調査結果
スーツのデザイン性をある程度許容する企業が増えているが、個性を出しすぎるのはリスク大。